「なぁ・・・ホンットぉ〜に、ここでいいのか?」
悟浄の問いに小さく頷く。
「僕も一緒に行きますよ。」
小さく首を振って八戒がジープを降りようとするのを止める。
二人の気持ちは嬉しいけど・・・今日だけはあたし一人で行きたいんだ。
「突然行って三蔵を驚かせたいから一人で行くよ。」
にこっと笑ってジープを飛び降りると、不満げなのか不安なのか良く分からない顔をした二人に手を振りながらあたしは三蔵がいる寺院に向かった。
今日は11月29日・・・三蔵のお誕生日。
「・・・ちょぉ〜っと考え無しだったかな。」
正面から行ってもあたし一人じゃ寺院の中に入れてもらえないって思ったから、思い切ってこの間悟空に教えてもらった抜け道から寺院に入ったんだけど・・・方向音痴のあたしが、無事三蔵の部屋にたどり着けるかどうか今更不安になってきた。
だって三蔵が悟浄の家に来る事の方があたしがこのお寺に来るより多いんだもん!しかも大抵お坊さんが案内してくれるから道順覚える事もないし・・・って文句言ってもしょうがないか。
あたしは自分の中にある三蔵探知機・・・もとい、帰巣本能を頼りに三蔵の部屋を目指した。
あたしは垣根に身を隠しながら時折顔を出して周りの草木と太陽の位置を確認しながら歩いた。
そんなので分かるのかって思ってもいるけど、一番日当たりがいい場所で草木が元気良く伸びてて・・・ついでに微妙に枝が折れてる場所が三蔵の部屋の近くだと思うんだよね。悟空が何かやった後、三蔵に起こられるのが嫌で庭に逃げると時々物を投げたりするから微妙に木の枝が折れたり垣根がへこんでたりするんだよね・・・あの辺。
そんな妙な目印を探しながら5分ほど歩いた所で、あたしは一番見慣れた景色を見つけた。
「あったー!!」
思わず声を上げてしまって慌てて自分の口を押さえるとその場にしゃがみ込む。
暫くそのままの体勢で固まっていたけどどうやら近くには誰もいなかったらしい。
ホッと息をつくと素早く一番近くの窓へ駆け寄り、背伸びをしてそれを軽く指先で叩いた。
「・・・三蔵。」
あんまり大声で呼んで間違えてたら恥ずかしいし、三蔵に迷惑かけちゃうもんね。
そう思って小声で呼んだんだけど・・・何の反応もない。
「・・・あれ?」
叩いた窓を背にもう一度庭に視線を向けて、そこが馴染みの庭・・・つまり三蔵の部屋から見る景色だと言う事を再確認する。
悟浄と八戒が今日は三蔵が寺院にいるって教えてくれたから絶対いるはずなのに・・・。
「三蔵?」
今度はさっきよりももうちょっと強めにガラスを叩いてみるけど、やっぱり中からは何の反応もない。
「・・・まさか、いない?」
何処か他の場所にいるのか、それとも出掛けているのか・・・はたまた三仏神様に呼ばれているのか。
三蔵がいないと言う事態は考えていなかったので、パニックに陥りそうになる。
「えーっ!もし三蔵がいなかったらこれどうすればいいの!?」
あたしは倒さないよう気をつけて持ち歩いていた小さな袋の中に入っている白い箱をじっと見つめた。
――― 受け取って貰えるかどうか分からないけど・・・
「渡したいよぉ・・・」
目が潤みかけたのを慌てて手の甲で拭うと、あたしは周囲の迷惑も顧みず側に落ちていた長い木の棒を拾い、それで窓ガラスをガンガンと叩き始めた。今までは身長が低くて窓の下の方しか叩けなかったから、今度はこれで窓ガラスの真ん中を叩こうと思ったのだ。
「さんぞぉー!!」
「煩いっっ!」
急に叩いていた窓ガラスが無くなったかと思うと、持っていた木の枝がちょうど真ん中辺りで折れていた ――― って言うか、これ折れたって言うより・・・何かで折られたって言う方が正しいんじゃない?だってほら・・・折れた部分ちょっと黒いし、触ると何だか熱いし、煙・・・出てる・・・し?
反射的に窓辺に立っている三蔵を見ると、何かを懐にしまっていた。
・・・撃ったな、昇霊銃。
見たわけじゃないけど、何故かはっきり言い切れる。
あたしの身長があともう少し高かったら、絶対体に当たってた!
運が悪ければ眉間にでも当たって・・・
――― 三蔵の誕生日=あたしの命日 ―――
になる所じゃないかっっ!!
そう思ってキッと三蔵の方を見れば・・・大きなため息とともに呆れ声で名前を呼ばれた。
「・・・。」
「・・・」
ついさっき死にそうだったのでついつい返事をし損ねたら、あっという間に頭にハリセンが振り下ろされた。
「こんな所で何してやがるっ!!」
・・・今日のハリセンも、痛いなぁ。
「で、何の用だ。」
あたしがハリセンの激痛に耐え目を開けた時に、三蔵はまるで何もなかったかのようにじっとこっちを見ていた。
頭のコブでも見せようかとも思ったけど、今日はそれよりも優先する事がある。
「三蔵に渡すものがあって・・・」
「それなら何故正面から来ない。」
「だって三蔵を驚かせたかったんだもん。」
「何・・・」
三蔵が眉を寄せたのが見えたから、次の言葉を言う前にあたしは手に持っていた箱を差し出してニッコリ笑顔でこう言った。
「お誕生日おめでとう!!」
「あぁ?」
「え?だって・・・今日って三蔵の誕生日でしょう?」
朝起きた時にちゃんと八戒に確認したもん!
だから絶対に今日は11月29日で間違いない!!
でも目の前の三蔵は何故か無言であたしを見つめたまま・・・あぁ、灰が落ちそうだ。
「さ、三蔵?灰が落ちるよ?」
「・・・」
あたしが指に挟んでいた煙草を指差すと、三蔵は無言で灰皿へ煙草を置いてさっきと同じようにあたし・・・と言うよりあたしの手にある箱を見つめていた。
・・・やっぱりダメだったか。
三蔵がこういうの好きじゃないって分かってたんだけど、悟浄と八戒のお誕生日を祝った時の二人の笑顔が嬉しくて・・:・自分の気持ちが伝わったのが嬉しかったからどうしても三蔵にも何かプレゼント渡したかったんだ。
だから朝から台所を借りて、悟浄達にここまで連れてきてもらったんだけど・・・。
はぁ・・・っとため息をついた瞬間、手の上に乗せていた箱の重みがなくなって落としたのかと思って慌てて周りを見たけど・・・無い。
まさかと思って顔を上げると三蔵が箱に結んであった紫のリボンを片手で持って、もう片方の手をあたしの方に差し出してくれていた。
「・・・いつまでそこにいるつもりだ。」
「さん・・・ぞう?」
「そこが好きなら別に構わんが。」
「・・・入っても、いいの?」
「これ以上外で騒がれたら迷惑だからな。」
それが三蔵なりの優しさだと分かるから、あたしは大きく頷いて差し伸べられた手を取った。
ギュッと握り締めれば同じように握り返してくれる大きな手。
足元にあった大き目の石を踏み台に何とか三蔵の部屋に入ると繋いでいた手はあっという間に離されて、三蔵はさっきまで仕事をしていたと思われる机の方へ向かっていった。
今日も随分沢山の書類があるんだなぁ・・・やっぱりあたし、邪魔しに来ちゃったかも。
「お仕事中ごめんなさい。」
「構わん、ちょうど息抜きをしていた所だ。」
・・・三蔵は息抜きに昇霊銃を撃ったりするのかな?
「・・・さっき銃を抜いたのは不審な人影が窓から見えたからだ。」
「な、何で分かったの!?」
「お前の顔に書いてある。」
思わず顔を手で隠すとそれを見た三蔵がホンの少しだけ笑った気がした。
緊張した空気が和らいだ今なら・・・言えるかな、言っても大丈夫かな。
三蔵に気づかれないよう小さく深呼吸をすると、あたしは三蔵が持っている紫のリボンがかけられた箱を指で示しながら、小さな声で呟いた。
「それ・・・一応手作りなんだ。」
「・・・何?」
「だからちょっと見た目の形が悪いけど・・・三蔵甘い物そんなに好きじゃないかと思って抹茶のカップケーキ作ったの。」
本当だったら普通のお誕生日ケーキを焼きたかった。
でも何度考えても想像できなかったの。
生クリームにイチゴがのったケーキにろうそくを立ててそれを吹き消す三蔵なんて・・・。
それ以前にあたしにスポンジケーキを作るような腕もないけど。
「一応自分で味見したから味は大丈夫だと思うんだけど・・・」
「・・・本当だろうな。」
「本当だもん!」
あたしが拳を握って力説する様子を見ていた三蔵が机の上に積まれていた書類をまとめて端に寄せると、椅子に座ってあたしが渡したプレゼントを紐解き始めた。
「・・・」
ふたを開けたまま表情の変わらない三蔵に不安を抱き、恐る恐る尋ねてみた。
「抹茶・・・キライ?」
初めて三蔵にあげた誕生日プレゼントが嫌いなものだった、そんな事になったらあたしもう立ち直れないよ!
すると三蔵は手に持っていたフタを机に置いて顔を上げた。
「・・・いや」
「良かったぁ〜それだけが心配だったんだ。あ、そうそうあとこっちは悟浄と八戒から頼まれたオマケ♪」
あたしはポケットにしまっておいたリボンと同じ色をした紫色の封筒を取り出すと三蔵に差し出した。
「あたしが帰ってから開けて欲しいって悟浄が言ってたよ。」
「そうか。」
「って三蔵!何で無造作にその辺に放り投げるの!?」
「くだらん内容だ。」
「読んでもいないのに決め付けちゃダメ!」
あたしがケーキを作っている間、二人居間で楽しそうに書いていたのを見てるから・・・こんな風に書類の上にポイッて置かれちゃうのはなんかヤダ!
その封筒を手に取るともう一度三蔵の前に差し出す。
「ちゃんと読んでね。」
「・・・分かった。」
今度はちゃんと受け取って懐にしまってくれた。
さてっと・・・これであたしの任務は終わりかな。
三蔵を驚かせたし、ケーキは渡せたし、二人からのカードもちゃーんと届けた・・・うん、完璧。
二人を外に待たせてるからそろそろ三蔵に帰る挨拶をしようとしたあたしの目の前で、思わず瞬きを忘れてしまいそうになる光景が目に入った。
三蔵が・・・あたしが作ったカップケーキを、食べている。
「・・・さんぞ?」
「美味いな。」
「・・・え?」
どうしてもすぐに反応できない。
「味も甘さもちょうどいい・・・これなら食える。」
そう言ってケーキに添えていたプラスチックのフォークで一口、また一口と口に運んでいく三蔵の表情はとても穏やかだった。
受け取って貰えるだけで十分だった。
それなのに・・・美味しいって言ってもらえるなんて思わなかった。
三蔵のお祝いに来たはずなのに、どうしてあたしの方がこんなに嬉しい気分になっちゃってるんだろう。
だから帰る前にもう一度言わせて。
あたしが三蔵に喜ばせてもらった気分が少しでも返せるように、気持ちを込めて言うから・・・
お誕生日、おめでとう・・・三蔵
ブラウザのBackでお戻り下さい
さて、私はこの一週間で何回三蔵のお誕生日を祝ったでしょう(笑)
正解は・・・4回でした(笑)四度目の正直かよっ!!
と言う訳で何とか間に合った、という事にして良かろう!(おいおい)
今回は三蔵の他にフラガさんのお誕生日もあったので、誕生日話を2つ書きました。
それにしても相変わらず三蔵は動いてくれない(苦笑)
他の二人より甘みが足りなかったらゴメンなさい(TT)
時間があれば三蔵が悟浄と八戒から貰った手紙のネタも書きたかったんだけど(オマケ風に)
ちょっと今回は他の作品や企画と更新が被ってしまったのでまた後日書ければ書きます。
(水月さんにネタを話したら大爆笑してくれたので、書く気はあるんですけど時間が・・・)
三蔵ってくずきり食べる人だから抹茶とか大丈夫かなぁと思ったんですが・・・如何でしょう?
だんだん食べ物ネタも尽きてきますねぇ(苦笑)
※ちょっとしたオマケ増やしました(笑)
読んでみようと言う人は、上のケーキをクリックして下さい♪